
宗教法人における企業型確定拠出年金制度
宗教法人においても、従業員が安心して老後の生活を迎えられるように、法人として退職金制度を準備したいという需要が高まっています。
企業型確定拠出年金制度は、厚生年金への加入などの条件を満たしていれば、宗教法人でも導入することが可能です。
今回は、宗教法人が企業型確定拠出年金を導入する際に注意したい点などを解説していきます。
ぜひお役立てください。
宗教法人とは
宗教法人とは、教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成することを主たる目的とする団体です。
この団体は、宗教法人法に基づき、都道府県知事または文部科学大臣の認証を受け、法人格を与えられた団体を指します。税法上「公益法人等」に含まれ、神社・寺院・教会をはじめ、それらを包括する教派・宗派・教団などが該当します。
【宗教法人の種類】
- 「単位宗教法人」…神社・寺院・教会などの礼拝施設を備えるもの(包括宗教法人の傘下にあるものを「被包括宗教法人」,傘下にないものを「単立宗教法人」といいます。)
- 「包括宗教法人」…神社・寺院・教会などを傘下に持つ宗派・教派・教団など
宗教法人の税制優遇とは
都道府県知事または文部科学大臣の認証を受けた宗教法人は、非営利性が認められ、「公益法人等」として、税法上、宗教活動から生じる所得は原則として非課税となるなど、税制上の優遇措置が設けられています
ただし、法人税法で定められた収益事業を行う場合は、その所得に対して課税されます。
宗教法人も企業型確定拠出年金制度を導入できる?
宗教法人であっても、企業型確定拠出年金制度を導入することはできます。
特に、宗教法人では定年制がないことや、退職金制度が設けられていない場合も少なくありません。
組織の持続性を高めるためにも、職員の福利厚生の一環として、企業型確定拠出年金制度の活用を検討することをおすすめします。
宗教法人における企業型確定拠出年金制度導入の留意点
① 社会保険に加入しているか
企業型確定拠出年金に加入するには、実施事業所の厚生年金被保険者であることが条件となります。
そのため、宗教法人が厚生年金保険の適用事業所であるかを確認する必要があります。
少人数であるなどの理由で厚生年金に未加入の宗教法人も少なくありません。しかし、法人格を持つ事業所で、常時従業員を使用する場合は、原則として厚生年金保険の強制適用事業所になるため、企業型確定拠出年金制度の導入要件を満たしている可能性が高いです。
また、強制適用事業所に該当しない場合でも、従業員の過半数が同意し、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受ければ、「任意適用事業所」として厚生年金へ加入することが可能です。
② 就業規則の整備
労働基準法では、常時10人以上の従業員がいる場合、就業規則の作成が義務付けられています。
宗教法人であっても、職員を一人以上雇用した場合は労働基準法が適用されるため、就業規則を設けておくと良いでしょう。
少人数の宗教法人では、就業規則を作成していない、あるいは必要ないと考えている場合もあるかもしれませんが、企業型確定拠出年金制度の導入有無にかかわらず、就業規則は賃金、労働時間、その他の労働条件など、雇用に関するルールを労使間で明確にするために重要です。
また、詳細なルールを定めておくことは、将来的に職員が増えた場合や、円滑な業務遂行のためにも役立ちます。そのため、企業型確定拠出年金制度の導入を検討する前から整備しておくことが望ましいです。
【就業規則の一例】
- 就業規則の目的
- 採用または異動など
- 服務規律
- 労働時間・休憩・休日など
- 賃金
- 定年・退職・解雇など
- 副業や兼業について
③ 給与計算の整理と明確化が必要
宗教法人においても、従業員への給与支払いは、定められたルールに基づき計算されます。
この計算には、月々の給与額の算出加え、給与や賞与に対する源所得税税”、社会保険料の計算・控除が必要です。
源泉徴収の対象となるのは金銭による給与だけではありません。
例えば、宗教法人が職員に住居や食事を無償で提供している場合は、これは現物給与とみなされ、原則として源泉徴収の対象となります。
同様に、無償で衣服などを支給または貸与した場合も、その衣服などの価額または貸与料に相当する金額が給与とみなされ、源泉徴収の対象となることがあります。
ただし、その衣服が職務の遂行上必要なものであれば、制服と同様に扱われ、課税対象とはなりません。
特に、企業型確定拠出年金の中でも「選択制DC」を選択する場合は、掛金は従業員の給与の一部から拠出される形となり、社会保険料の算定基礎にも影響するため、給与計算を正確かつ明確に行うことが一層重要になります。
宗教法人においても、従業員のための退職金制度設立を
年齢に関わらず長く勤められるイメージの宗教法人ですが、近年では退職金制度を設けるケースも増えています。
そのため、一般企業と同様に、職員のための退職金制度を整備したいと考えている宗教法人が増えており、企業型確定拠出年金制度の導入を検討するケースも多くなっています。
しかし、実際には社会保険への加入手続きが未了であったり、就業規則などの基本的なルールが整備されていなかったりする宗教法人が多いのも現状です。
加えて、宗教法人は税制面で一般企業と異なる部分も多いため、企業型確定拠出年金の導入にあたっては、制度に詳しい専門家に相談し、多角的な視点から検討を進め、適切な制度設計と運営管理を行うことが望ましいでしょう。