企業型確定拠出年金の掛金はどう決める?具体的な設定方法と注意ポイントを解説
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、将来に備えて資産を作る制度です。
原則、企業が拠出した掛け金を、従業員が自己の資産として運用する制度で、企業や選択されるプランによって細かいルールが異なったり、掛金には上限があるなど、一定のルールが設けられているので注意が必要です。
この記事では、企業型確定拠出年金での掛金の設定方法について、わかりやすく解説します。
企業型確定拠出年金の掛金には上限がある
企業型確定拠出年金の掛金は、基本的に各企業が設定しますが、企業毎に定める年金規約や制度設計により、掛金の上限額が異なるので注意が必要です。
掛金の設定方法とその基準
企業が設定する掛金の金額は、明確な基準に基づいて決定する必要があります。
この掛金の設定方法はいくつか存在し、年金規約に記載されますが、具体的には、以下のような定額方式や定率方式があります。
定額方式 | すべての加入者(従業員)に対し、同一の掛金を拠出します。 |
定率方式 | 給与額に基づき、一定の比率を乗じた額の掛金を算出します。 さらに、従業員の職位や役職などの基準を元に、段階的な掛金の増減を行う場合もあります。 |
掛金の算出は、根拠となる基準をしっかりと設け明確にしておくことが大切です。
高い想定利回りを設定すれば、企業の掛金負担は減少しますが、従業員の運用リスクが高まります。
また、低い想定利回りを選ぶと、運用の見込み収益は控えめとなり、従業員のリスクは低くなりますが、必要な退職金額を満たすための掛金が増加することで企業負担が増加します。
掛金の上限額
掛金の上限額は、他の制度とどの程度の併用をおこなっているかで変わります。
企業型確定拠出年金のみの場合や中小企業退職金共済・小規模企業共済との併用の場合は、月額55,000円(年額660,000円)が上限となります。
また、企業型確定拠出年金を「厚生年金基金」や「確定給付企業年金(DB)」などの他の制度と併用する場合は、月々の上限は27,500円(年額330,000円)となります。
このように、他の制度と合わせて利用するケースでは、前述の上限を超えないように設定しなければならないため注意が必要です。
特に、掛金を定率方式で定めている場合には、より慎重に掛金を設定する必要があります。
従業員が自らの掛金を追加で拠出できる「マッチング拠出」
企業からの掛金が設定された上限に達していない場合は、「マッチング拠出」を採用することもできます。
マッチング拠出とは、加入者である従業員が、自らの掛金を追加で拠出できるものです。
ただし、マッチング拠出の際の掛金は、企業の掛金額以下であること、企業からの掛金と合わせても上限額を超えないことが条件となります。
企業型確定拠出年金の掛金は変更が可能
企業型確定拠出年金では、選択した商品に基づいて資産を運用していきます。長期にわたる運用となるため、その途中で運用の状況が変動する可能性が高くなります。
掛金の変更やその回数に関する詳細は、年金規約に定められており、その範囲内であれば、何度でもおこなうことができます。
しかし、実際の運用をスムーズにおこなうことや事務手続きの手間などを考慮すると、年に1回以内が適切といえるでしょう。
さらに、従業員が休職や休業をして給与が支払われない期間が生じた場合は、年金規約に定めることにより、掛金の拠出を一時停止することも可能です。
従業員が加入を選べる「選択制企業型確定拠出年金(選択制DC)」
企業型確定拠出年金は、企業がすべての従業員のために掛金を拠出する制度です。
企業は制度を設計する上で、自社の特性や従業員の将来のライフプランを考慮して様々なシミュレーションをおこないますが、すべての従業員のライフプランに完璧に合わせることは難しいといえます。
そういった企業負担を軽減し、それぞれの従業員自身が、企業型DCの加入を「選択できる」仕組みが導入されています。これは企業型DCのひとつで「選択制DC」と称されています。
「選択制DC」では、手当の受け取り方を選択できる
選択制DCを適用する際、給与からDCに拠出することができる枠を取ります。この枠は「生涯設計手当」や「ライフプランサポート手当」などと称されます。この場合、給与の総額は変わらず、従業員は手当の受け取り方を以下のように選択できます。
- 選択制DCに掛金として拠出し、将来に年金(あるいは一時金)として受け取る。
- 選択制DCには加入せず、給与として受け取る。
自由度の高さが魅力
掛金を拠出しない選択や、後から金額を変更することも許容されている「選択制DC」においては、従業員が自分のライフプランや資産状況に応じて、掛金の金額を柔軟に調整できます。
「マッチング拠出」とは異なり、選択制DCでは、事業主掛金を超えることはできないという制約はありません。
さらに、企業が従業員の掛金に追加して拠出することも可能です。このとき、企業側の掛金は、税務上の損金として扱われ、従業員の掛金は給与として扱われません。
社会保険料の計算上、平均報酬が減少するため、老齢厚生年金の額に影響が出ることもあります。しかし、増加傾向にある社会保険料の負担を考えると、選択制DCの利用は、企業にとっても従業員にとっても大きなメリットとなり得るでしょう。
企業型確定拠出年金は上限内でライフプランに合わせた選択を
企業型確定拠出年金は、将来の資産形成を目的とする制度です。
掛金の拠出額には上限があるため注意が必要で、この掛金の計算方法や上限額は、明確な基準に基づいてあらかじめ決定されている必要があり、年金規約に記載されます。
また、掛金の変更も可能で、従業員が自ら追加する「マッチング拠出」や従業員のライフプランに合わせて柔軟に対応できる「選択制DC」の活用も推奨されています。
企業が税金を節約し、将来の財務負担を軽くする一方で、従業員の将来のための資産を築く方法として大きなメリットを得られるでしょう。