
企業型確定拠出年金とiDeCoは併用できる?留意点とポイントを解説
企業型確定拠出年金とiDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後の資産形成手段として注目されています。
これらの制度は、人々が退職後も安定した生活を送れるよう支援するために設計されていますが、「企業型確定拠出年金とiDeCoを併用できるのか」という点や、その際のルールについて知っておくことが大切です。
今回は、企業型確定拠出年金とiDeCoの基本的な仕組み、併用の可否、掛金の上限など、併用する際の注意点を詳しく解説します。
企業の人事・労務担当者は、これらの制度を最大限に活用する方法や注意点を把握し、従業員からの問い合わせにスムーズに答えられるようにしておきましょう。
現在、企業型確定拠出年金やiDeCoに加入している方も、ぜひ参考にしてください。
私的年金とは?メリットや注意点
「私的年金」とは、国民年金や厚生年金といった公的年金制度とは別に、個人や企業が任意で加入する年金制度のことです。
これには、企業の福利厚生制度として導入されることが多い「企業型確定拠出年金(企業型DC)」や、個人で加入できる「個人型確定拠出年金(iDeCo)」、民間の保険会社が提供する「個人年金保険」などがあります。企業または加入者自身が掛金を拠出し、運用することで資産形成を目指します。
私的年金の主なメリットは、公的年金に上乗せする形で、将来の収入源を自分で準備できることです。
また、税制上の優遇措置があり、掛金が所得控除の対象になったり、運用益が非課税になったりする場合があります。
さらに、運用商品は基本的に自分で選べるため、自身のリスク許容度や目標に合わせた運用が可能です。
一方で、私的年金の注意点としては、投資には元本割れのリスクがあり、市場の変動によって資産が減る可能性があることです。運用結果によっては期待したリターンが得られないリスクもあります。
また、運用商品の選択や管理には一定の知識が必要となり、適切な運用ができない場合、将来の資産に影響を与える可能性があることも理解しておく必要があります。
私的年金を選ぶ際は、まず自分の現在の収入や貯蓄、将来のライフプランを考えることが重要です。提供される運用商品のリスクとリターンをよく比較検討し、長期的な視点で資産形成を計画することが求められます。さらに、定期的に運用状況を確認し、ライフステージの変化に合わせて運用方針を見直すことも大切です。
このように、私的年金は適切な知識と計画に基づいて利用する必要がありますが、老後の資産形成の有効な手段として注目されています。
「企業確定拠出年金(企業型DC)」とは
「企業型確定拠出年金(企業型DC)」とは、私的年金のひとつで、主に企業が掛金を拠出し、従業員自身が運用して老後の生活資金を準備する年金制度です。
もともとアメリカの401kプランを参考に導入された制度で、日本でも多くの企業で採用されています。企業型DCには、従業員も掛金を上乗せできる「マッチング拠出」という仕組みを導入している場合や、従業員が掛金を拠出するかどうかを選べる「選択制DC」というタイプがあります。
拠出された資金は、従業員が選んだ株式・債券を含む投資信託などの金融商品で運用され、その運用成果は、原則60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。
企業型DCは、従業員が主体的に退職後の資金を計画的に準備することを促す制度であり、企業の福利厚生としても重要視されています。
企業確定拠出年金の特徴とメリット
企業型DCは、企業ごとに定められたルールのもとで運営され、従業員が自己責任で投資先を選び、資産を運用する仕組みです。
選択制DCであれば、掛金を拠出するかどうかや、拠出する場合の金額を自分で決めることができ(企業の定める範囲内で)、リスク許容度や老後の資金計画に応じた資産運用が可能です。
また、企業にとっては、掛金の拠出額が確定しているため、将来の退職給付費用の見通しが立てやすいというメリットもあります。
企業型DCは、企業と従業員の双方にとってメリットのある制度です。
従業員にとっては、税制優遇を受けながら将来の資金を形成でき、退職後の生活資金を計画的に準備できる点が大きなメリットです。特に、自分で投資先を選べるため、自身のリスク許容度や目標に合わせた柔軟な資産運用が可能です。掛金(マッチング拠出や選択制DCで従業員が拠出する場合)や運用益が非課税となる税制優遇も大きな利点です。
一方で、企業にとっても、拠出額が固定されているため財務計画が立てやすいメリットがあります。また、従業員の老後の生活を支援することは企業の社会的責任を果たすことにもつながり、福利厚生の充実は優秀な人材の確保や定着にも寄与します。
ただし、運用結果の責任は従業員自身が負うため、企業は投資に関する適切な情報提供や教育(投資教育)をおこなうことが求められます。従業員が自己責任で適切な資産形成をおこなえるよう支援することが、企業の重要な役割となります。
「iDeCo」とは
「iDeCo(イデコ)」は、「個人型確定拠出年金」の愛称で、日本の公的年金制度を補完する個人向けの私的年金制度です。
企業型DCは、その制度を導入している企業の従業員が対象であるのに対し、iDeCoは、自営業者、公務員、会社員、専業主婦(主夫)など、原則として20歳以上65歳未満の国民年金被保険者であれば、多くの人が個人で加入できます。
iDeCoでは、加入者が自分で掛金額を決め(上限額の範囲内で)、掛金を拠出し、その資金を株式や債券などの金融商品で運用します。運用して得た資産は、原則60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。
特徴は、加入者自身が掛金額、投資先、運用方法をすべて自分で選択できる点であり、自分のリスク許容度や将来設計に基づいた資産運用が可能です。
iDeCoの特徴とメリット
iDeCoの最大のメリットは、税制上の優遇措置です。
掛金は全額が所得控除の対象となり、所得税や住民税の負担を軽減できます。また、運用益も非課税で再投資されるため、複利効果を得やすく、長期的な資産形成に有利です。さらに、受け取る際にも、年金形式なら「公的年金等控除」、一時金形式なら「退職所得控除」という税制優遇があります。
これにより、公的年金だけでは不足しがちな老後の資金を、効率的に準備することが可能となります。
さらに、自分自身で投資先を選べるため、個々の投資スタイルやリスク許容度に合わせた資産運用ができる点も大きな魅力です。
柔軟性が高く、個人のライフプランに応じた計画が立てやすいiDeCoは、老後資金準備の有効な選択肢として、多くの人に利用されています。
「企業型確定拠出年金」と「iDeCo」の違い
改めて、企業型確定拠出年金とiDeCoの違いを確認してみましょう。
加入対象者と加入方法
この二つの制度は、日本の私的年金制度の中で重要な役割を担っていますが、明確な違いがあります。
まず、企業型DCは、企業が従業員のために設ける退職給付制度の一つです。掛金は主に企業が拠出しますが、マッチング拠出や選択制DCでは従業員も拠出できます。この制度は導入企業の従業員を対象としており、従業員は会社を通じて加入します。
一方、iDeCoは、自営業者、公務員、会社員、専業主婦(主夫)など、幅広い人が個人で加入できる制度です。個人が金融機関を選んで直接申し込み、自分で掛金を拠出し、運用します。企業の関与はなく、完全に個人の判断と責任で加入・運用します。
掛金の拠出者と税制優遇
企業型DCでは、企業が拠出する掛金は全額損金扱いとなります。従業員がマッチング拠出や選択制DCで拠出する掛金は、iDeCoと同様に全額所得控除の対象となります。運用益は非課税です。
iDeCoでは、加入者自身が拠出する掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税です。
運用の自由度と手数料
企業型DCでは、運用商品のラインナップは企業が選定し、従業員はその中から選びます。口座管理手数料などは多くの場合、企業が負担します。
iDeCoでは、金融機関(運営管理機関)ごとに用意されている運用商品の中から自分で選びます。口座管理手数料は自己負担となります。iDeCoの方が商品ラインナップの選択肢が広い場合があります。
このように、企業型DCとiDeCoは、加入対象者、加入方法、掛金の拠出方法、運用の自由度、手数料負担など、様々な面で違いがあります。それぞれの特性を理解することが、自分に合った老後資金計画を立てる上で重要です。
企業確定拠出年金とiDeCoは併用できる
確定拠出年金の制度は、これまで頻繁に法改正がおこなわれています。
現在の日本では、高齢化が進み、老後の生活資金を公的年金だけに頼るのではなく、自分で準備すること(自助努力)の重要性が増しています。
国もこの考え方を後押ししており、2022年5月には確定拠出年金の加入可能年齢が拡大され、さらに2022年10月からは、企業型DCの加入者も原則としてiDeCoに加入できるようになりました。
それまでは、企業が規約でiDeCoとの併用を認めている場合に限り併用が可能でしたが、法改正後は企業の規約に関わらず、掛金の上限額の範囲内であれば、iDeCoに加入できるようになったのです。これにより、個人の資産形成の選択肢が広がりました。
ただし、企業型DCとiDeCoを併用する際には、それぞれに拠出できる掛金の上限額が定められているので注意が必要です。
それぞれの掛金限度額はいくら?
企業型DCとiDeCoには、それぞれ掛金の上限額が設けられています。
企業型DCのみに加入している場合、掛金の上限額は月額55,000円です。ただし、確定給付企業年金(DB)など他の企業年金にも加入している場合は、「月額55,000円から、各月のDB等の掛金相当額を控除した額」となります。
iDeCoのみに加入している場合の上限額は、加入者の種別(自営業者、会社員、公務員、専業主婦(主夫)など)によって異なります(例:自営業者は月額68,000円、会社員で他に企業年金がない場合は月額23,000円など)。
企業型DCの加入者がiDeCoにも加入する場合、両制度の掛金の合計額に上限が設けられています。
- 企業型DC + iDeCo = 55,000円(うち、iDeCoの上限は20,000円)
- 企業型DC+企業型DC以外の企業年金制度 + iDeCo = 55,000円(うち、iDeCoの上限は20,000円)
企業型DCの掛金だけで上限額(月額5.5万円)に近い金額を拠出している場合は、iDeCoに加入しても拠出できる金額が少ない、あるいは全く拠出できない(iDeCoの最低掛金額は月額5,000円)可能性もあります。
このように、二つの制度を併用するメリットもありますが、企業型DCは口座管理手数料が企業負担の場合が多く、投資教育などのサポートも受けられるため、まずは企業型DCの制度を最大限活用することを検討するのが一般的です。
企業型確定拠出年金のひとつ「マッチング拠出」とは
マッチング拠出は、企業型DCのオプションのひとつです。
この制度では、企業が拠出する掛金(事業主掛金)に加えて、従業員も任意で掛金を上乗せして拠出できます。従業員が拠出できる掛金額は、①事業主掛金額を超えず、かつ②事業主掛金と合計して企業型DCの拠出限度額(月額5.5万円)を超えない範囲内で、企業が規約で定めた上限までとなります。(※企業型DC以外の企業年金制度がある場合は上限額が異なります。)
【例】事業主掛金が月額10,000円の場合、従業員は最大で月額10,000円まで上乗せ拠出でき、合計掛金は月額20,000円となります(ただし、合計額が拠出限度額を超えない範囲)。
従業員が拠出した掛金は全額所得控除の対象となり、税負担が軽減されます。運用して得た資産は、原則60歳以降75歳までの間に、年金または一時金として受け取ることができます。
「マッチング拠出」と「iDeCo」の違い
マッチング拠出とiDeCoは、どちらも個人が掛金を拠出して税制優遇を受けられる仕組みですが、異なる特徴があります。
まず、マッチング拠出は企業型DCの制度の一部であり、勤め先の企業がこの制度を導入している場合に限り利用できます。掛金は給与天引きで拠出され、企業型DCの口座内で一体的に管理・運用されます。
これに対し、iDeCoは個人が主体となって加入する独立した制度です。金融機関選びから掛金設定、運用商品の選択まで、すべて自分で行います。企業の関与はなく、個人で口座を開設し管理します。企業型DCに加入していても、マッチング拠出を利用していなければ、原則としてiDeCoにも加入できます。
マッチング拠出とiDeCoは併用できる?
企業型DCでマッチング拠出を利用している場合、iDeCoに加入することはできません。
法改正により企業型DCとiDeCoの併用は原則可能になりましたが、マッチング拠出とiDeCoの併用は依然として認められていません(2025年5月現在)。
したがって、勤め先の企業型DCでマッチング拠出が導入されている場合は、マッチング拠出を利用するか、iDeCoに加入するかのどちらか一方を選択する必要があります。
マッチング拠出とiDeCoのどちらを選ぶか?判断基準とは
マッチング拠出とiDeCoはどちらか一方しか利用できないため、どちらを選ぶか検討が必要です。判断基準としては、以下のような点が考えられます。
- 拠出できる掛金額:
- マッチング拠出:従業員の拠出上限は「事業主掛金額」かつ「拠出限度額までの残りの枠」。事業主掛金が少ないと、拠出できる額も少なくなります。
- iDeCo:企業型DCの事業主掛金額によって上限(最大2万円)が決まります。
- どちらが多く拠出できるかは、個々の状況によります。
- 手間と管理:
- マッチング拠出:給与天引きで手続きが簡単。口座管理も企業型DCと一本化されます。口座管理手数料はかからないことが多いです。
- iDeCo:自分で金融機関を選び、口座開設手続きが必要です。口座管理手数料が自己負担となります。
- 運用商品:
- マッチング拠出:企業が用意した商品ラインナップの中から選びます。
- iDeCo:自分で選んだ金融機関の商品ラインナップから、より多くの選択肢の中から選べる可能性があります。企業型DCにはない商品で運用したい場合はiDeCoが有利です。
- 加入可能年齢:
- マッチング拠出:基本的に企業型DCの加入資格がある間(通常は在職中)利用できます。
- iDeCo:原則65歳未満まで加入できます(国民年金被保険者であるなどの要件あり)。老齢基礎(厚生)年金を65歳前に繰上げ受給した場合は加入できません。
掛金を少しでも多く拠出したいか、手続きの手間を省きたいか、運用商品の選択肢を重視するかなどを考慮して判断しましょう。手数料や口座管理のしやすさも重要なポイントです。
マッチング拠出は企業のサポートを受けながら手軽に積立額を増やせる方法、iDeCoはより自由度が高く、主体的に資産形成を進めたい人向けの方法といえます。
ご自身の状況や考え方に合わせて、最適な選択をしましょう。
確定拠出年金の併用は可能!最新の情報もチェックしよう
企業の人事・労務担当者にとって、自社の企業型DC制度とiDeCoとの併用条件や、頻繁な法改正の内容を正確に理解しておくことは非常に重要です。従業員への適切な情報提供や、制度変更への対応も求められます。
しかし、これらの情報を常に把握し、対応していくことは大きな負担となる可能性があります。これは、従業員が自身の加入内容を理解し、適切に判断・管理していく上でも同様です。
このような負担を軽減するために、専門家(コンサルタントや金融機関など)のサポートを活用する企業も増えています。
確定拠出年金制度は、今後も法改正がおこなわれる可能性があります。長期的に安定した制度運営や資産形成のためには、専門家のサポートを検討するのも有効な手段です。
とはいえ、制度で運用するのは将来のための大切な資産です。導入後も専門家に任せきりにするのではなく、企業の担当者も加入者である従業員自身も、常に最新の情報を収集し、制度への理解を深めていくことが大切です。