ひとり社長の将来に備えて。「一人法人」も企業型確定拠出年金を導入する選択を

昨今増え始めている、「一人法人」をご存知ですか?

一人法人とは、ひとりで会社を設立し、経営者としての役割も従業員としての役割もひとりで担う形の働き方で、「ひとり社長」とも呼ばれ、文字通りひとりで法人を運営し、活躍している人のことをいいます。

この一人法人は「個人事業主(フリーランス)」とは異なり、事業の立ち上げ方や受けることができる税制優遇なども変わってきますので、同じ「ひとりで働く」という形をとるにしても、それぞれの違いやメリットとデメリットを知っておくとよいでしょう。

そして、この記事では、一人法人が企業型確定拠出年金を導入した場合、どのような流れで手続きをし、どのような節税を期待できるのかをご紹介しています。

ぜひ、企業型確定拠出年金の導入検討の際にお役立てください。

企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?

企業型確定拠出年金は、「企業型DC」と呼ばれ、この制度を導入している企業で働く従業員が加入することができる年金制度です。

原則、企業が毎月決まった掛金を拠出し、自社の従業員に対して支払った掛金を従業員個人が運用をおこない、従業員は原則60歳以降に年金もしくは一時金として受け取ることができます。

この制度は、企業にとっては支払う金額を予見したり財務計画が立てやすく、従業員にとっては、多くの税務上の優遇を受けられるという、労使双方にメリットがあります。

「一人法人」と「個人事業主」とは?

会社に属さずひとりで働く形として、「個人事業主」を思い浮かべる人も多いかと思いますが、最近では「一人法人」として働く人も増えてきています。

まずはこの一人法人と個人事業主の違いや特徴をみていきましょう。

一人法人とは

以前は、株式会社には取締役会の設置が義務付けられていたので、3名以上の取締役が必要とされていたこともあり、「会社」や「法人」と聞くと、設立するためには複数人数が必要と思われがちですが、平成18年5月に会社法が施行され、取締役会の設置は任意となったことにより、取締役の最低人数は1名となりました。

この会社法の施行により、従来よりも株式会社が作りやすくなったことから自身が経営者と従業員のどちらの役割も果たし、ひとりで会社を運営していく形の働き方も増えてきました。

ただし、現在は有限会社の設立は認められておらず、会社法で設立が認められているのは、「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社(LLC)」の4種類の法人形態で、そのうち1名で設立することができるのは、「株式会社」「合名会社」「合同会社(LLC)」の3種類となります。(※合資会社は2名以上の出資者が必要)

次に、1名で設立することができる法人形態についてご説明します。

株式会社とは

株式会社の「株式」とは、出資した人に対して発行する証券のことで、この株式を発行し、出資者に販売した資金で経営をおこなう形態の会社のことをいいます。 

上記のように株式会社に出資をして、株式を保有する人のことを「株主」といい、株式会社は、株主から資金を集める代わりに、株主に対して会社の利益の一部を予め定められた割合で分配もしくは還元する必要があります。

また、株式会社は、株主により集められた出資金をどのように使って会社を運営したのかを株主に報告する義務があり、株主は会社の経営に間接的に参加する権利を持ちます。

他の会社と違う点は、出資者と経営者を分ける「所有と経営の分離」の仕組みを有し、会社の所有者が株主で会社運営を経営者がおこなう形になっていることですが、経営者が自ら出資し、株主になることもできます。

  • 株式会社の設立時の取締人数:最低1名
  • 取締役会の設置:任意
  • 出資者の責任範囲:有限責任

合名会社とは

合名会社とは、出資者となる全員が「無限責任社員」となり、連帯責任を負う形で構成される会社形態のことをいいます。

会社を設立するハードルが比較的低く、株式会社とは異なり株式の発行や株式上場はできませんが、利益の分配を自由に決めることができたり、決算公告の義務もありません。

さらに、社員全員に「代表権」と「業務執行権」が与えられ、定款変更などは社員全員の同意が必要となるのが特徴です。

ただし、社員全員が無限責任になるため、会社の債務は資本金に関わらずすべて無限責任社員が負うこととなります。

  • 株式会社の設立時の取締人数:取締としての人数なし
  • 取締役会の設置:なし
  • 出資者の責任範囲:社員全員が無限責任

合同会社(LLC)とは

合同会社は、以前、会社の形態のひとつとして設立することができた「有限会社」の代わりに新設することができるようになった会社形態で、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルに導入されました。

この合同会社は設立や運営コストが低く、出資者が経営者となることや、株主総会なども行う必要がない点などから、平成18年の会社法施行により、新たに設立することができなくなった有限会社に代わって選ばれることも多く、小規模企業や外資系企業などで採用されている会社形態です。

合同会社を設立する際の出資社員:最低1名

出資者の責任範囲:有限責任(株式会社と同様)

それでは、ひとりで働くという形が共通している「個人事業主」とはどのような違いがあるのでしょうか?

次に、個人事業主についてご説明します。

個人事業主とは

個人事業主とは、会社を法人として設立せず、個人で事業をおこなっている人のことをいいます。

「フリーランス」も個人事業主の一種で、税務署に「開業届」を提出することで個人事業主になるための手続きは完了となります。

法人と個人事業の違いとは

同じようにひとりで働く形とは言っても、一人法人と個人事業主は仕組みが全く異なり、双方の「設立」だけでなく、「税制」や「廃業」にもその違いをみることができます。

税制の違い

法人は、基本的な税金として、「消費税」「法人税」「法人住民税」「法人事業税」「特別法人事業税」の5種類で、合わせておおよそ30%前後となり、利益が低い時もしくは赤字の場合であっても、最低7万円の税金がかかります。

個人事業は、「累進課税」と呼ばれる税が適用され、所得(利益)が上がる分だけ税率も上がる仕組みとなっており、最も高い場合、所得税と住民税が50%を超えることもあります。

廃業時の手続きの違い

法人と個人事業は、廃業(事業をやめる)するときにも違いがあります。

法人が廃業する際は、従業員や取引先への通知に加え、発行済み株式の株主が出席する株主総会で解散決議を行い、清算人を選定する必要があります。この決議には、出席株主の3分の2以上の同意が必要であり、書面決議を行う場合は株主全員の賛成が必要です。

さらに、「解散届出」を提出したり、決算書類の作成や債務整理をおこなうなど、この他にもさまざまな手続きを経て廃業となります。

このように、法人の廃業手続きには非常に時間と費用がかかるのに対し、個人事業の手続きは比較的簡単で、廃業した日から1か月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出するのみとなり、この書面提出に際して費用はかかりません。

一人法人でも企業型確定拠出年金は導入可能?

昨今、企業の福利厚生として導入されることも増えてきた企業型確定拠出年金は、従業員が加入できるものというイメージが強く、「一人法人は加入することはできない」という認識を持たれている方も多くいらっしゃいます。

そして、個人事業主などから法人化した場合など、すでにiDeCoの加入者となっている場合も、企業型確定拠出年金の導入や加入への興味が低かったり、自社では導入や加入ができないと思っていらっしゃる方も多いようです。

上記のような疑問や認識での質問にまずお答えすると、一人法人であっても、企業型確定拠出年金を導入し、加入することは可能です。

また、現在iDeCoに加入中であっても、企業型確定拠出年金へ移行したり併用することも可能となります。

一人法人で企業型確定拠出年金を導入する条件とは

企業型確定拠出年金には、企業内の加入者の人数制限はなく、厚生年金被保険者(第二号被保険者)であれば、制度の導入や加入が可能ですので、一人法人であっても問題なく導入することができます。

上記をご覧になって企業型確定拠出年金の導入に興味を持たれた一人法人の方、これから一人法人化したいとお考えの方は、ぜひ以下をご確認ください。

一人法人で企業型確定拠出年金を導入する確認リスト

税制優遇や関連する法令など

【加入者としてのメリット】

  • 拠出する掛金は所得扱いとならないため、個人負担分では所得控除ができる
  • 拠出する掛金は法人税において、すべてを損金の算入できる
  • 通常の投資運用で得た運用益には20%が課税されるが、企業型確定拠出年金の運用によって得られた運用益は、全額非課税となる
  • 企業型確定拠出年金の掛金として拠出される金額は所得の扱いとならないため、掛金部分は社会保険料の算定基礎の対象外となる
  • 企業型確定拠出年金の給付金を「年金」「一時金」「年金と一時金の併用」などで受け取る際、所得控除(※1)の対象となる

※1 一時金として受け取る場合は「退職所得控除」、年金として受け取る場合は雑所得として「公的年金等控除」が適用となる

【企業としてのメリット】

  • 企業型確定拠出年金を導入した際、運営管理手数料や資産管理手数料などの費用がかかるが、会社の経費として全額損金算入ができる

【導入に際しての留意点】

  • たとえ会社が破産しなくてはならないような事態が起きたとしても、「確定拠出年金法(※2)」により、企業型確定拠出年金の資産は、破産しても処分しなくてよい「自由財産」とされていて、税金の滞納処分以外では差し押さえが禁止の財産となる

※2 「確定拠出年金法」とは

「確定拠出年金法」とは、個人又は企業が拠出した掛金を従業員(個人)が運用の指図をおこない、将来年金として給付を受けることができるようにするために、確定拠出年金について必要な事項を定め、まとめた法律のことです。

参考:厚生労働省ホームページ「確定拠出年金法」第一章 総則(目的)より
https://www.mhlw.go.jp/topics/0106/tp0628-4.html

手続きや従業員の雇用など

  • 一人法人(ひとり社長)であっても、導入や加入の手続きは企業(会社)としておこなうので、個人で加入できるiDeCoよりも手続きに段階がある
  • 将来的に雇用する従業員も企業型確定拠出年金に加入する必要がある(※3)ことを把握しておく

※3 任意加入の選択制企業型確定拠出年金も可能

企業型確定拠出年金を導入する際の手続きの流れ(※4)

STEP1 従業員を雇用する場合、従業員や従業員代表への説明と同意(※5)が必要となる

※5 一人法人の場合は必要なし

STEP2 企業型確定拠出年金の「加入者資格」「運営管理機関の名称」「掛金の算出方法」など、制度の内容をまとめた規約を作成する

STEP3  作成した規約を地方厚生局に申請し、承認を得る

※4 従業員人数を複数人抱える企業であっても、一人法人であっても、企業型確定拠出年金を導入する際の手続きの流れは同じとなります。

企業型確定拠出年金とiDeCo、加入するならどちらが良い?​​

現在、一人法人を経営している方、もしくは、個人事業主などから一人法人化しようとしてる方、または、このいずれかの状態ですでに個人としてiDeCoに加入されている方もいらっしゃることかと思います。

それぞれの状況の中で、「企業型確定拠出年金とiDeCo、加入するならどちらが良いのだろうか?」という疑問をお持ちになるかと思いますが、どちらも将来のための備えをする資産運用という役割があるものの、双方にはそれぞれ特性があり、メリット・デメリットも存在します。

どのような特性があるかを改めて確認してみましょう。

上記のように、企業型確定拠出年金とiDeCoではそれぞれの控除額が異なるため、個人の所得税の節税をおこないたいのか、企業にかかる経費として計上し、法人税を節税したいのかなども判断基準にすると良いでしょう。

そして、先にも触れましたが、企業型確定拠出年金とiDeCoは併用することも可能です。

ご自身の会社の経営状況や経営計画、将来に向けての個人のライフプランなども考慮して、より良い選択ができるように、十分に比較検討してみてください。

一人法人も企業型確定拠出年金を活用して将来の資金準備を

この記事では、「一人法人」と「個人事業主」の違いや一人法人の種類、一人法人が企業型確定拠出年金を導入するメリットや手続きの流れなどをご紹介しました。

一人法人は、経営者が会社の経営方針から日々の仕事内容まで、すべてのことをひとりで意思決定をすることができますが、会社経営をすると避けられない節税対策・売上管理・業績を伸ばす施策など、並行して考えなくてはいけないことも非常に多いのが現実で、そしてこれらの熟考・決定・進行をひとりでやっていくことが必要となります。

このような状況の中で、節税対策の部分は、多くの企業が取り入れており、一人法人でも導入することができる企業型確定拠出年金を採用するひとり社長も増えてきています。

長い人生において、“今”働くことはもちろんのこと、“老後”の資産形成もしていくことは非常に大切です。

税制優遇を受けることができたり、企業として節税に繫がり、個人としても将来のために資産準備ができる企業型確定拠出年金をぜひご検討ください。

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